だれかが松葉杖で扉をたたく

結構、嘘つきである。

しーんのシーン

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テレビを見ていると懐かしいシーンが映っていて、思わず注目した。「北の国から」のあのシーンである。

ラーメン屋で変な顔をした(たぶん)父親が、子供たちと深刻な話をしている。何を話していたのかは、まったく記憶にない。見たのは随分昔で、しかも、その回のそのシーンをたまたま見ただけなのだ。

もう閉店の時間が過ぎていて、店のおばさんは親子を迷惑そうに見ている。早く片付けてさっさと帰りたいのだ。しかも、親子は、ラーメンを食べずにぼそぼそ話しているだけだ。さっさと食って帰らんかい、というのがおばさんの心境だろう。前後関係を知らない私も、そう思っていた。

とうとう我慢できずに、おばさんが片付けはじめるた。すると変な顔をした(たぶん)父親が、あのセリフを叫ぶのだ。

「子供がまだ食ってる途中でしょうがぁ」

私はびっくりした。おじさんの顔は変だったが、どちらかというと優しそうな雰囲気である。まさか、怒鳴るとは思わなかったのだ。

私の頭の中が「しーん」となった。それが最初の「しーん」体験だった。

次に頭の中が「しーん」となったのは、これもテレビを見ている時だった。

お笑い系のマジシャンがお客さんを一人舞台に上げた。ものすごく真面目そうなおじさんである。そのおじさんをネタにして、笑いを取るという展開だった。

最後、「いつまではさんでるのよ」というマジシャンの言葉を聞いた瞬間、おじさんは首や脇の下にはさんでいた(マジシャンの指示ではさまされていた)ボールを落とし、舞台から降りていった。まったくの無表情である。

あわてた感じでマジシャンが「怒ったあるか。ごめんある」と声をかけたのだが、時すでに遅しである。あれは真面目なおじさんが可哀想だった。笑いものになるのが耐えられる人ではなかったのだ。

あの時も、私の頭の中が「しーん」となった。

そう言えば、テレビではなくリアルな「しーん」も一度ある。

打ち合わせの席で、相手が理不尽なことを言い続ける。くどくどくどくど、ねちねちねちねち、言ってる内容も仕事とは関係のない方向へ逸れていき、論理も無茶苦茶である。性格異常か精神に疾患のある人だったのだろう。

そんな言葉を聞いていても時間の無駄である。例え大企業のスポンサーであっても、これ以上聞き続けるのは意味がない。

私は、パッと右手を挙げた。相手が何事かと言葉を止めた瞬間、思い切り机をぶっ叩いた。バンッと驚くほど大きな音がして、打ち合わせルームがシーンとなった。他に何組も打ち合わせをしていたのだが、数秒間、会話は完全に途絶えた。

今思えば、ここで静かに「あんた、うるさいよ」とでも言っていれば、なかなか格好良かったのだろうが、私は無言だった。手のひらが痛すぎて、言葉が出なかったのだ。

回りはしーんとしたが、私の手はジーンとなっていたと言うわけだ。

私はダジャレが嫌いでこういうダジャレぽい文章は書きたくないのだが、事実なのだから仕方がない。

 

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