だれかが松葉杖で扉をたたく

結構、嘘つきである。

佐々木譲の「代官山コールドケース」を読みながら、「同潤会アパートメント写真集 Design of Doujunkai」を見る贅沢。

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佐々木譲の「代官山コールドケース」という小説を読んだ。

私は、東京はさほど詳しくない。新宿、六本木、白金、市ヶ谷などは行ったことがあるのだが、代官山は未知である。なんとなくだが偉そうな地名に思える。おそらく一番いい場所は「お代官山」などと呼ばれているのだろう。

「代官山コールドケース」は、17年前に起こった若い女性の殺人事件の謎を解く話である。恋人だった男が疑われ、その直後に自殺したため、被疑者死亡で送検。すでに解決済みの事件となっていた。だが、現在、川崎で同様の事件が起こり、さらに現場に残っていたDNAが、17年前に採取されたものと一致した。

過去の事件と現在の事件が交錯し、少しずつ事実が明かされ、2つの事件がリンクしていく様子は、これぞ日本版警察ミステリーと言った感じで、読んでいて楽しい。

特にいいのは、代官山という街が、事件が起こった当時と、調査が再開された今とでガラリとその様相を変えていることだ。

17年前に殺された女の子は、かつての代官山の象徴である同潤会アパートに住んでいた。私は、代官山は知らなくても同潤会アパートのことは知っていて、なぜかと言うと、「同潤会アパートメント写真集 Design of Doujunkai」という本を持っているからだ。

知らない人のために説明しておくと、同潤会アパートという一棟の建物ではなく、東京や横浜に存在した一連の建物の総称であり、同潤会という財団法人が建てたアパートのことである。その多くは古いコンクリート造りの建物で、ツタが絡んだりアールデコ風の階段があったり、建築物に興味がない人でもおしゃれに感じるのではないか。

ただ、住むのは大変だったらしい。風呂がない。水回りが共有。古くて雨漏りの補修が追っつかない。文化財として非常に貴重で魅力がある存在ながら、徐々に取り壊され再開発されてしまったのも、住む人の「もう、たまりません」という本音があったからなのだろう。

そうした事実も、「代官山コールドケース」を読んだから知ったわけで、以前は、同潤会アパートメントの写真集をパラパラ見ながら、「こんな素晴らしい建物を再開発とは、けしからんな」と思っていたのだから、やはり無知は罪である。

読んでいるうちに、刑事たちの取り調べを通して、東京に憧れ、代官山の安アパートに暮らし、夢を持ちなから生きていた女の子が魅力的に思えてくる。だから、犯人が追い詰められて自供する場面では、大きなカタルシスがある。

なかなか面白うございました。