だれかが松葉杖で扉をたたく

結構、嘘つきである。

爺さんの苦労自慢を聞かされて、ふと「おしん」を思い出す。

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爺さんは、嫌いである。

なぜかと言うと、私も爺さんだからだ。爺さんの嫌らしさは、爺さんが一番良く知っているのである。私が好きなのは女性であり、年齢は18歳から50歳くらいまでと幅広い。いや、55歳、まてよ60歳でも、うーん、やっぱり58歳くらいか。

そんなことは、どうでもいい。

以前、私より10歳ほど上の爺さんに誘われて飲みに行ったことがある。ちょっと世話になったので断れなかったのだ。

その爺さんはずいぶん苦労したようで、その話が延々続いた。父親アルコール依存症であったこと。いつも近所に食い物を貰いに行ったこと。小学生の頃から新聞配達や魚屋でバイトをしたこと。「その割には人間ができてないな」などと思ったのだが、もちろん口には出さない。

その内「君もきっと苦労しているはずだ」と言われた。頭がハゲているせいで、そう思われたのかもしれない。失敬なやつだ。

自慢ではないが、我々の世代は苦労しなくても生きていけた世代である。

適当に勉強して、適当な大学を出て、それでもそこそこの企業に就職できた世代だ。私のようなぼんくらでも、面接を受けた企業のほとんどから内定を受けた。今の学生のように、就活のための勉強もしなかった。ゆとり世代が馬鹿にされているが、それよりも確実にアホだった。

もちろん、苦労らしきものはしている。

自分の希望の職業に就くために専門学校に通ったり、国家資格をとるために徹夜で勉強をしたり、希望の職業に就いたら就いたで、何日も徹夜が続いて風呂場で失神したりはした。だが、それは好きでやっているのであって、とても苦労とは言えないものだ。自分で言うのは気恥ずかしいが、それは努力と言うべきだろう。努力と苦労は違う。

苦労には、理不尽さが必要だと思うのである。

私の考える苦労とは、例えば「おしん」に見る苦労だ。

ご存知か? 

おしん」とは、1983年4月からはじまったNHK連続テレビ小説である。「ひよっこ」や「あまちゃん」の先輩だ。平均視聴率は52.6%。最高視聴率62.9%。これは、テレビドラマの最高視聴率記録である。

例えば、昼ご飯を食わせてもらえない。金がなくなると、自分のせいにされる。朝起きてから寝るまで、ずっといじめが続く。それに耐えてたくましく生きていく女性の物語だ。

視聴者から「これ以上おしんをいじめないで!」という手紙も寄せられたと言うから、とんでもない苦労をさせられたのだろう。実は、私は見ていないのだが、「おしん=いじめ」というイメージは刷り込まれている。確か、母親が「可哀想に!」などと泣いていた。

で、聞くところによると、そうしたいじめは現実の世界にもあるらしく、そう言えば、JR西日本の「日勤教育」などはおしん的な理不尽ないじめだろう。107人が死亡したあの脱線事故は、いじめにより追い詰められた運転士の自殺だ。直接的に追い詰めた上司、理不尽な日勤教育に声を上げなかった社員たち、そうした社風を変えようとしなかった歴代の社長は、死んで詫びるべきである。

さて、私は、10年ほど会社勤めをしていたが、そうしたいじめ的な経験は一度もない。職人的な職種のせいか、人間関係に悩んだこともない。あれば、それを苦労として語れるのだが、まったくないのである。

そんなことを爺さんに言ったら、「つまらんやつだな」と思われたのか会話が途切れた。白けた空気が流れ、私は、ついマスターに「ミッドナイト・マティーニを」と頼んでしまった。酒の味は苦かった。

そういう経験がないことは、幸せなのかもしれないが不幸せなのかもしれない。私は、戯れに小説を書いたりもするが、深みも味わいもない作風であるのは、そうした経験がないせいかもしれない。

誰かいじめてくれんかな、と思うのだが、もう年齢的に無理だろうか。

今度、「君も苦労したんだろ?」と聞かれたら、嘘をついてでも「ええ、これで結構苦労してるんですよ」と言おうと思う。

 

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