だれかが松葉杖で扉をたたく

結構、嘘つきである。

あわてるべき時には、きちんとあわてよう、という話。

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アメリカではよくある話だが、例えば銃の乱射事件である。

たいていの人は、あわてて逃げ出すだろう。隠れる場所がない。犯人に飛びかかれるような至近距離でもない。ああ、次々に人が倒れていく。次は、オレか!? そんな状況なら、運を天に任せてとにかく逃げるしかないのである。

こんな時に、「落ち着け」などと声をあげる人はいない。いるとすれば、落ち着いているつもりになっているが実はパニックに陥っている人である。たまにB級映画に出てきたりするが、もちろんすぐに殺されてしまうのだ。

地震も同じである。

地震で落ち着いていてはいけない。正しく、きちんとあわてる必要がある。

さて、私は一身上の都合により、朝日捏造新聞を購読している。だが、例え朝日捏造新聞とはいえ、まれにではあるが読むべき記事はあるのだ。

4月29日の朝刊にこんな記事が載っていた。「その時学校は 続く問い」というタイトルで、東日本大震災で起こった石巻市立大川小学校の児童ら84人が犠牲となった記事である。

私は、かつてこの惨事についての記事を読んだ時、「なぜ、そばにある裏山に登らなかったのか」と疑問に思った。当時の記事では、どうやら教師たちが「どうすればいいのか?」と時間をかけて話し合い、その結果、川の方に逃げて津波に襲われたらしいことがわかった。

で、今回の記事では、津波の直前に娘を迎えに来た母親の話が載っている。実は、「裏山へ逃げた方がいい」と一部の生徒や、生徒を迎えに来た母親などが先生に進言していたというのだ。

その部分を抜き書きするのである。

 

「裏山に逃げた方がいい」。クラスの男の子が担任に掛け合った。「今、話をしているから」。取り合わなかった。午後3時ごろ、女性の母親が迎えに来た。「ラジオで警報が流れています。早く山に逃げてと言っています」と担任をせかした。「お母さん、落ち着いて」「でもね、先生」「大丈夫です」。母親はあきらめて女性を車に乗せ、避難した。後から聞いた話では、同級生たちはそれから20分以上、校庭にとどまった。午後3時半過ぎ、教頭は川近くの小高い「三角地帯」へ向かうことを決断したが、途中で津波に襲われ、84人が帰らぬ人となった。

 

地震が起きれば、津波を警戒する。

東日本大震災のあの津波の怖ろしい映像を知る今でこそ当たり前のことなのだが、当時は、まだリアルな恐怖としては認識されていなかったのだろうか。だが、地震が起こった直後に、「大津波警報が発令されました」と防災無線が繰り返されていたのだ。当然、教師たちも聞いているはずだ。

「お母さん、落ち着いて」と言った担任は、本当は落ち着いている場合ではなかったのだ。そして、それすらわからないほど、彼は混乱していたのだろう。

普段はそこそこ頭がいいはずの先生たちが、地震が起これば海に近い自分たちのいる場所が津波に襲われる危険性が高いということに考えが至らず、逆に危険な海の方に向かって避難してしまう。パニックになると、頭がいいと自覚している人ほど、こういう状況に陥ってしまうのではないか。「あわてるな」と自分に言い聞かせ、「うん、今、自分は落ち着いている」と思い込み、その時点ですでに冷静な判断力は失われているのだ。

当時、大川小学校は、避難場所を「近隣の空き地・公園等」としか決めていなかったのだそうだ。避難訓練も、校庭に出て終わりだったという。

地震の際は津波対策で裏山に逃げる」というマニュアルがあれば、そして、しっかりと避難訓練に取り入れていれば84人は死なずにすんだ可能性が高い。もちろん、「もし、裏山が崩れた場合は」というプランBも必要である。

私自身、臨機応変からはほど遠い人間である。「今日はアツなりそうやなあ」などと声をかけられただけでパニックに陥るタイプである。天気の話をするのなら、あらかじめ「それはそうと、今から天気の話をするけど」ときちんと断ってからしていただきたいのだ。そうすれば、「えっ、あっ、うーん」などと口ごもらずに、「ええ、暑くなりそうですね、今日も」と正しい天気の会話を交わすことができるという面倒くさい人間である。

実は私も震度6は経験しているのだが、冗談抜きで「ゴジラだ」と思った。揺れが収まってからも、まともな思考はできなかったのである。津波の危険を前に迷っていた先生たちを非難することはできないのだ。

ちなみに岩手県釜石市では、2009年から防災教育を本格化させた。例えば、子供と高齢者ばかりになる地域では中学生の果たす役割を重視した訓練を行っている。実際に東日本大震災が起こった際には、中学生が小学生の手を引き、住民とともにより高い場所へと避難することができたのだそうだ。

私の住む地域など、津波の心配がほぼないせいか、何の訓練もしていないのである。最近、ようやく電柱に避難場所の指示が貼られるようになった。

ちょっと心配である。