だれかが松葉杖で扉をたたく

結構、嘘つきである。

なに、阪急電車が炎上!? それは大変だ。

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思わず想像してしまった。

炎上する阪急電車が、武庫之荘駅の桜並木に火を付けながら通り過ぎ、武庫川の鉄橋の上を炎を吹き出しながら渡り、岡本駅を通る時にはホームの学生たちを燃やしながら疾駆する光景を。ああ、本当に見てみたいものだ。

さて、阪急電車の広告が炎上したんだそうだ。

【明治から数えて5つ目の元号を走り始めた令和の節目に、働く全ての人を応援する企画列車「 #ハタコトレイン 」を運行します。様々な業界・世代の働く人々の思いを紡いだ言葉集「はたらく言葉たち」とコラボし、仕事に誇りと志を見出す人々の言葉たちで電車内をジャックします!】

企画としては、まあまあいいのではないか。

ただ、選ばれた「言葉」が悪かった。一番、不評だったのが次の言葉である。

「月収50万円の生きがいのない生活より月収30万円の仕事が楽しくて仕方ない生活がいい」

私は、こういう恣意的な言葉は嫌いだ。早い話が、嘘だからだ。「月収50万円」と「生きがいのない生活」には、論理的な必然性はまったくない。月収50万円であろうが30万円であろうが15万円であろうが、はたまた100万円であろうが、生きがいがある場合もあれば、ない場合もある。生きがいと月収の多寡は別なのだ。いくら啓蒙的な広告とは言え、嘘はいけない。

まあ、炎上している本当の理由は、そういう部分ではなくて、月収50万円と30万円という金額にあるらしい。この言葉を考えたのは80代の研究機関の研究者という訳の分からない爺さんらしいのだが、「若い世代の給与を知らないのか」「やりがい搾取だ」などと批判が集まったのである。

確かに月収20万円の人が見れば腹立たしいだろう。「ねっ、30万円でもやりがいのある仕事のほうがいいでしょ」と阪急電車に言われても、「いや、おれ、手取り16万円なんだけど」と自答するのは悲しいことだ。

数字を出すのは広告的表現としてよくあるのだが、この場合は、明らかに出してはいけない事案である。ただ、数字を出さないと、このフレーズの場合はピンボケした広告になってしまう。この趣旨でつくるとすれば「月収では負けたけど、生活を楽しむことでは負けてない」とかだろうか。

なんにしても「いや、これって、30万円以下の人に失礼なんじゃないの」と誰からも意見が出なかったのは、これは阪急電車にとって不幸なことだった。

土地勘のない人に説明しておくと、阪急電車が走っているのは山手なのだが、その南側にJR、海側に阪神電車が通っている。基本的に、阪急沿線は高級住宅街が多く、JR、阪神と下るにつれて少しずつランクが落ちていく。特に阪神沿線などは(以下182文字削除)。

まさか、阪急電車に乗っている人は月収50万円はあるはずだという思い込みがあったのではないだろうが、今回は少々配慮が足りなかったようだ。

ちなみに広告が炎上すると、阪急電鉄はすぐにお詫びのメッセージを出し、広告も中止した。広告を見る側の感覚を持たないままに、爺さんやらオッサンの調子こいた独りよがりな言葉を無自覚に載せたことは企業として恥ずべきことだが、批判を浴びたからと言ってすぐに取り下げるのも恥ずべきことだ。

阪急電鉄や制作会社の人たちは、もう少し、誇りを持って仕事をした方がいいと思う。そんな情けない姿勢じゃ、とてもやりがいは感じられないだろう。