近所のメガネ店に出かけた。
頭は悪いわ体力もないわ、おまけに視力も弱くて困ったものである。加齢による疲れ目もひどく、新聞を読むのも一苦労だ。私は、一身上の都合でいまだに朝日捏造新聞を読んでいて、なぜこんな糞みたいな新聞のために苦労しなければならないのかと腹立たしい。
朝日捏造新聞のせいでずいぶんと視力も落ちているようなので、新しいメガネをしつらえることにしたのだ。
メガネ店で言われた。
「これは、いいレンズをお入れですね」
どうせおだてておいて、高価なレンズを入れさせようとするセールストークだろう。その手には乗らないのだ。
ところが店員は、過去の台帳を見ながら「今、入れておられるのは、45,000円のレンズですよ」と言った。私は、驚いた。
「なんですと!? 45,000円というのは、単位は円で間違いないのかね? もしかしてウォンじゃないのか?」
「いえ、間違いないです。45,000円です」
私のようなケチで貧乏な男が、なぜ、こんな薄っぺらなプラスチックの物体にそんな大金を支払ったのか。その記憶がまるでない。フレームはレイバンでちょっと高かった記憶はあるが、レンズに関してはまったくないのだ。
混乱する私を置いたまま、彼は言葉を続けた。
「この当時としては、一番、いいレンズですね。ただ……」
ご存知か?
相手が「ただ」と言えば、当然、こちらは「ただ?」とセリフを継がなければならない。私は、ドラマをよく見ているので、この台詞回しに関してはプロ級なのだ。「火曜サスペンス劇場」で鍛えた技だ。
「ただ?」と私は絶妙のタイミングで口にした。
「ただ……同じレンズが今は値下がりしております。今なら25,000円ですね」
な、なんですとお!? と言うことは、2万円もお得じゃないか。
値下がりしているという一点に意識が集中してしまい、9,000円や15,000円のレンズがあることが視野に入らない。気がつくと25,000円のレンズに決めてしまっていた。数年経てば、「なぜ、9,000円のにしなかったのだ!?」と不思議がっているのだろう。
新しいメガネの出来上がりは、一週間後である。
私は帰宅すると、今使っているレイバンのメガネを外して、不自由な裸眼でじっと見つめた。
ドラマに出ていた兄ちゃんがかけていたのと同じモデルである。つい嬉しがって買ってしまったメガネだ。たまに「これは、あのドラマであの俳優が付けてたモデルで」などと自慢していたのだが、なんとレンズの方が倍ほど高価だったのだ。主役は、レンズだったのである。
本当は、レンズ自慢をしなければならなかったのだ。
「見たまえ。このレンズはHOYA製の遠近両用レンズで、屈折率は1.67だ。なんと45,000円である。見事だろう」
考えれば、確かにメガネの本質は、いかによく見えるかだ。レンズが主役というのは、自明の理である。そんなこに今頃気づくとは……。
従ってレンズ選びや購入前に行われる目の検査は、極めて重要である。検査がうまいか下手かで最適のレンズと出会えるかどうかが決まるのだ。
例えば、見るからに怖そうなおっさんがイライラしながら「赤と緑、はっきり見えるのはどっちや!?」などと検査していたら、とても正しくは答えられないだろう。モゴモゴしていたら「赤か!?」などと急かされて、「はい、赤です」と答えてしまうのだ。
まあ、そんな店員いないだろうけど。
ちなみに二重丸の描かれた赤と緑の検査だが、あれは「同じくらいに見える」「どちらかというと赤がはっきり見える」が適性度数なのだそうだ。緑がはっきり見える場合は、度がきつすぎるのである。
私は判断がつきにくく、「うーん、どちらかというと赤のような気がしないでもないな」と答えることが多く、優柔不断と思われないかと心配していたのだが、それは適性度数だったということだったのだ。
新しいメガネは、ラルフローレンである。ラルフローレンのメガネをかけた今にも死にそうなジジイを見かけたら、それは私である可能性が高い。遠慮なく声をかけてくれたまえ。