私は、人を信じないタイプである。
老人が運転する対向車は必ずこちらに向かって突っ込んでくるし、高いビルからは悪ガキが放り投げた犬の糞が落ちてくるし、貸した金は戻らず、保証人を頼んできた友人は連絡が付かなくなる。そもそも、自分自身を信じていないのだ。他人など信用できるはずがない。
とは言え、決して自分が猜疑心の強い人間だと卑下しているわけではない。
人を信用するというのは、本来卑しい行為なのだ。自分が望むように相手が動いてくれることを期待しているのである。立場的に上にある人物が、「君を信用しているよ」などと言うのは、まさにその顕著な例だろう。信用していると言いながら、「おれの言うとおりにせんかったら、どうなるかわかってるやろな」と圧力をかけているのだ。
そう言えば、確か筒井康隆さんだったと思うが「信用という言葉で信用できるのは、信用しすぎて起こる信用恐慌だけだ」と書いていたと記憶している。皆さんも、決して信用という言葉を信用しないように。
さて、ウルトラセブンの「明日を探せ」である。
これは、私が好きな話の一つで、キリヤマ隊長の見せ場が多く、また市井の人がうまく絡むことで味わい深いストーリーとなった作品だ。そして、人への信頼がテーマとなっている。
まず、冒頭から引きつけられる。一人の爺さんが逃げている。必死である。ダンプカーに追われているのだ。
中国人風のコスチュームで、後でわかるのだが彼は占い師である。やっと逃げたと思ったとき、そこにキリヤマ隊長とフルハシ隊員が乗ったポインターが現れる。息も絶え絶えに彼は「マルサン倉庫、爆発」と語って意識を失う。
占い師は、警備隊本部で「本当に見えたんですよ。マルサン倉庫は爆発する。しかも、キリヤマ隊長が怪我をする」と訴える。ちなみにマルサン倉庫というのは、ウルトラ警備隊の動脈ともいえる重要な拠点だ。
もちろん隊員たちは「どうせ夢でも見たんだろ」と信用しない。その後、キリヤマ隊長たちはマルサン倉庫を捜索するのだが、結局何もなかった。
「ほら見ろ、やっぱり嘘っぱちだ」
「いや、待て。今日は何もなかったが、明日何か起こらないとも限らない」
キリヤマ隊長の言葉に、占い師は喜ぶ。「そうですよ。今日じゃなきゃあ、明日。明日を探せばいいんだ」
キリヤマ隊長は、一旦占い師を帰すのだが、その後長官に「あの男が言う、明日を探してみようと思います」と1日だけの休暇を願い出る。「相変わらず頑固だな……わかった。これを持って行け」と笑いながら、自分の拳銃を手渡す長官。このあたりは、信頼しあった上司と部下と言った趣で、なかなかいい場面だ。
これと同じシチュエーションは、その後、ダン隊員とキリヤマ隊長との間でも繰り返される。ダン隊員がキリヤマ隊長を探しに行くのだ。
「ダンじゃないか。どうしてこんなところへ」
「隊長と一緒に、明日を探したくなりましてね」
ダン隊員の言葉を聞いた瞬間の、キリヤマ隊長のうれしそうな顔。いやあ、いい場面ですな。
その後、占い師の予言通りにマルサン倉庫は攻撃され、キリヤマ隊長は怪我をする。
「俺たちの責任です」と予言を信じなかった隊員が謝るのに対して、キリヤマ隊長は、「窮鳥懐に入れば猟師も殺さず。殺されると助けを求めてきた彼を、死のジャングルに追いやったのは私だ」と自分を責めるのである。
一方、占い師は、ひどい目にあっていた。
宇宙人(宇宙ゲリラ・シャドー星人)に追われる途中、うら若き女性がうずくまって泣いている場面に遭遇する。放っておけばいいのに人がいいんだろう、つい「どうしたんです」と声をかけてしまう。振り返った女の顔は、もちろん異様な顔をした宇宙人なのだ。逃げ込んだ店の店員も宇宙人。必死で逃げる途中、占い師は運良く通りかかったタクシーに乗り込んだ。
「どこでもいい、今すぐ出してくれ!」
「どうしたんです、お客さん」
「宇宙人に追われているんだ!」
「そりゃ、大変だ」と運転手が答えるのだが、ミラーに映った顔も宇宙人なのである。占い師は、恐怖のあまり気を失う。いやあ、ホラー映画のお決まりですな。このへんは、見ていて楽しい。
その後、彼は秘密基地に監禁され「よくも予言で我々の計画を邪魔してくれたな」と怒る宇宙人に拷問にかけられる。
「いいか。でたらめな予言をするんだ。そうすれば助けてやる」
「なるほど、そうしておいて地球防衛軍の基地をドッカーン……あっ、いや、私は何も知りませんですよ。忘れました、はい」
「恐ろしい奴だ。我々の計画を知り抜いている」
シャドー星人との掛け合い漫才なのである。今回は、ギャグ的にもなかなか出来がいいのだ。
最後は、ウルトラセブンと占い師のアドバイスのおかげで宇宙人の侵略を阻止することができたのだが、きちんとオチも付いていた。
「頼むよ、今度は信じるからおれの運勢を教えてくれよ」と手を合わせるフルハシ隊員に対し、占い師は「ダメです」と答える。実は、彼の予知能力は宇宙人に拷問を受けたことで失われてしまっていたのだ。
バンザーイと喜ぶ占い師。これでもう逃げなくてもすむんだ、というワケである。子供心に、「では、どうやってこれから飯を食うんだ」と思ったことを覚えている。占い師を廃業して、ラーメン屋でもはじめるのだろうか。
ちなみに、キリヤマ隊長は平成10年に70歳で亡くなった。ダンに向かって見せたあの笑顔は、今も忘れられない。
できれば、ああいう笑顔が向けられるような、信頼に足る男になりたかったものである。