期待などしない方がいいのだ。
期待するからハードルが上がる。
国道沿いにある自販機で勇気を振りしぼって助平な本を買ったというのに、中身はどう見ても40過ぎのおばさんがセーラー服を着ているだけであり、しかも裸になると女子高生らしさは皆無。「おれの800円を返せ」と叫んでも、自販機は何も答えてはくれないのだ。
いや、私はそんな経験はないのだが、わかりやすいようにシチュエーションを想像して書いたみた。まあ、今は、自販機で買わなくてもネットを検索すればいくらでも助平な画像や映像を見ることができる。いや、助平過ぎと言っても過言ではなく、その手のものが好きな人にとっては天国のような時代だろう。
映画もそうである。
昔は映画は映画館で観るものだった。やがてビデオが登場し、レンタルして見るものになった。そして、今はネットである。しかも、私が愛用しているGyaO!など頭がおかしいのか無料配信してくれる。
もちろん、話題作はなかなか無料にならない。聞いたこともないような作品が多い。だから、私は、思い切りハードルを下げて見ることにしている。「この映画は100点満点で18点くらいだろうな」「時間の無駄になる可能性は86%だ」などと考えるのである。
「シューテム・アップ」という映画も、そうして見はじめた。
そしたらあなた。大当たりである。
むさいオッサンがバス停のベンチで座っている。夜である。坂道の途中のバス停でちょっと面白い構図だ。男は、ニンジンを丸かじりする。そこに腹を押さえた女性が降りてくる。苦しみからの悲鳴を上げながらだ。
ウンコが漏れそうな体勢なのだが、よく見ると腹が膨らんでいる。妊婦なのだ。そこへ彼女の後を車が追いかけてくる。停まりそこねて駐車している車にぶつかり、怒り狂った男が降りてくる。
ニンジン丸かじり男は、カップを片手にニンジンを握り、ただ見ているだけだ。夜のくすんだ風景に、ニンジンのオレンジ色が鮮やかに浮き上がる。
車から降りてきた男はベンチの男に「なにを見てやがる」と脅しをきかせながら拳銃を抜き出し、女の後を追う。
「このクソ野郎が」と吐き出すように男は言い、二人の後を追うために立ち上がった。
その29秒後にニンジン丸かじり男は、拳銃の男を倒して妊婦を救うのだが、その倒し方が予想外だった。もう、その最初の予想外だけで「ええもん見せてもろた」状態である。なかなか魅力的なラスボス(本当のボスではないが)の倒し方も予想外だった。
まあ、ドンパチもののお馬鹿映画であることは間違いないのだが、これは正しいお馬鹿映画だ。この映画に対して「なぜ主人公の弾ばかり当たるのだ」と文句をつけるアホな人はいないだろう。
私は普段からアメリカ人を能天気で無神経な馬鹿者と言っているのだが、こういう映画を作るから、能天気で無神経な馬鹿だからと言って本気でバカにすることはできないのだ。
いやあ、面白かった。高評価なのは、ハードルを下げたからだけではないということは言っておきたい。「シューテム・アップ」は、しっかりと志を持ったB級映画である。