私だって、勘違いはする。間違いもおかす。しかし、謝るときはきちんと謝る。
もし、私が満員電車の中でウンコを漏らしたとして、こんな言い訳をしたらどうなるか?
「いや、確かに満員電車の中で脱糞して、車内をパニックに陥れたのは私である。しかし、皆さんだってSNSのいいネタができたではないか。こんな経験は滅多にできないはずである。感謝したまえ」
もう、袋叩きになるのである。いや、臭いから誰も近寄らないだろうが、乗客たちは遠巻きにしたまま私を指差し罵声を浴びせるだろう。
満員電車の中でウンコを漏らしたら、これはもうひたすら「すみません」と言い続けるしかないのだ。変に気取ったセリフを言ったり、余裕があるふりをしても失笑を買うだけだ。
さて、小説家の中沢けいさんである。彼女がこんなTweetをした。
▼韓国は8つも偵察衛星を持っていることを知らない人がぞろぞろ出てきた。そんな人たちに支持される首相は自分の政府が出した「個人賠償権は残っている」との見解を忘れている。
残念ながら完全な勘違いである。私はムン大統領のファンクラブにも入っているくらいの韓国好きなのだが、それでもこのTweetには驚いた。韓国人にも自国のロケット技術のおくれを嘆く人は多いのだ。
内容の真偽はあとにするが、そもそも意味がよくわからない。
「韓国が8つも偵察衛星を持っていることを知らない人」は安倍総理を支持していると決めつけているが、その方面の知識のあるなしが、なぜ政権に対する支持とつながるのか?
おそらくGSOMIAの破棄に対して「韓国は偵察衛星を持ってないのに」とコメントした人が多かったのだろうが、だからと言って、その人たちがアベ政権の支持者とは限らない。韓国の偵察衛星の有無と、アベ政権を無理矢理結びつけるのは、あまりに飛躍が過ぎる。リベラルな人たちの共通した症状なのだ。
さらに、「個人賠償権」てなんやねん。「個人請求権」やろがーっ、と思わず突っ込んでしまうのである。これが「個人請求券」という誤字ならまだいいのだ。あるある、ですむ問題である。私だってよくやるミスだ。しかし、「個人賠償権」というミスは、ちょっと恥ずかしいのである。
そして、なにより、あなた。
決定的な事実として、韓国は、8つの偵察衛星を持っていないのだ。まあ、私も直接韓国軍に「持ってまっか?」と聞いたわけではないのだが、ネットの情報によると持ってないと言う情報ばかりなのだ。
調べてみると、どうやら中沢けいさん、「日本の8つの偵察衛星」を「韓国の8つの偵察衛星」と誤訳した記事を読んで、「え、8つも持ってんの!? じゃあ、GSOMIAなんていらないじゃない」と早合点したようなのだ。
で、そんな誤った情報を発信したものだから、さっそく「なにおかしなこと言うとんじゃ」とコメントが殺到した。ただ、中沢けいさんの良かった点は、すぐに訂正のTweetを出したことである。言い訳するより、すぐに謝る。それが鉄則だ。
だが、しかし。
▼韓国は8つの衛星を持っているというのは誤訳でした。ごめんなさい。教えて下さった人、どうもありがとう。ミスを楽しんだ皆さん、よい材料を提供したんだのだから感謝してください。御礼はいりませんから。
いけません。これはいけません。すぐに訂正したのはいいのだが、余計なことを言ってしまった。
自分よりアホな連中に間違いを指摘されて悔しいのはわかる。勘違いしてどや顔でTweetしてしまい、その恥ずかしさで余計なことを書かずにおられなかったことは、よく理解できる。
しかし、「ミスを楽しんだ皆さん、よい材料を提供したんだのだから感謝してください。御礼はいりませんから」などと書いてはいけない。もう一度言う。「ミスを楽しんだ皆さん、よい材料を提供したんだのだから感謝してください。御礼はいりませんから」などと書いてはいけない。これは、恥ずかしい。
このセリフは、満員電車の中で脱糞し、それを「SNSのいいネタができたでしょ。感謝しなさい」と言うのと同じである。そんなことを言ったって臭さも恥ずかしさも消えはしないのだ。いや、むしろ恥ずかしさは増すだけだ。
最後の二言さえなければ、理想的な謝罪Tweetになったものを、と私自身残念で仕方がない。
ちなみに、私は中沢けいという人の作品を一度も読んだことはない。実は私は、日本の作家は筒井康隆しか読まない偏向の強い読者なのだ。やはり、作品のためには、自分のウンコを食うくらいの覚悟のある作家を読みたいものである。
で、どんな作家なのかとGoogleしてみた。
えーと、中沢けい、と。名前の印象からすると、20代、せいぜい32歳といったところか。爽やか系。ショートカットが似合う、ぱっと見男の子にも見えるような美少女かな? 最近は、文学性よりも話題性だからなあ。困ったものだが、ま、仕方がないね。よーし、出てきたぞ。ん……。いや、これって……。え……!?
私は、出てきた中沢けいのページをそっと閉じた。