いやいやいや。
この顔は「原宿に、行きたい」とは言うてへんやろ、と私は思わず口走ったのである。どちらかというと、「原宿、くそが」という表情である。「優勝しても原宿だけには行かへんでぇ」と言っているように見える。「原宿なんか、わてが滅ぼしてやるんじゃ」とまで言うと言いすぎか。
日清の大坂なおみ選手を使った広告である。
なにより日清が発したTweetがひどいのである。これが炎上に火を付けたと言っても過言ではない。
「ついに始まるグランドスラム! どんな応援をすれば大坂なおみ選手の勝利に貢献できるのか色々と考えた結果、大坂さんのことを好きになってもらえたら勝ちだなという結論にたどり着いたので、かわいい情報を置いておきます。大坂選手、頑張れ!」
脳天気極まりない。そもそも「好きになってもらえたら勝ちだな」という文章のイヤらしさはなんなのか。企画意図に書くような内容をストレートに出してどうするのだ。消費者を「かわいいと言うとけば喜びよるやろ」と馬鹿にしているのである。
私もある場所で「アホな主婦や子供にもわかるように作ってちょうだい」などと広告マンが発言するのを聞いたことがあって、どうも彼らの一部には、「一般人はアホ」という認識があるのではないか。
言っておくが、一般人でアホな人の占める割合は、立憲民主党の支持率と同じである。アホじゃない人の方がはるかに多いのだ。
さすがにこの日清の広告を見て、アホじゃない方の人たちがいっせいに非難の声を上げた。
「マジでこの、解毒するみたいに〈政治性を抜く〉やり方はやめてほしいんですよね。そりゃ政治から距離を置いていられた方が楽でしょうが、そんな暢気に暮らしていられる国はどこにもないです。『かわいい』で政治性を抹消する戦略も随分政治的な態度ですが、ナメられているのを感じて腹が立つ」
中には、もっとあからさまにTweetしている人もいる。
「スポンサーがBLMへの賛同の姿勢を見せることが、彼女がもっとも勇気づけられることだと思いますけど」
まあ、私は、正直言って大坂なおみ選手のマスクのアピールは好きじゃない。いや、はっきり言って嫌いである。だから、ことさら彼女の意志に賛同してBLMに迎合した広告を作らなくてもいいと考えている。
だが、彼女の行動が世界的に見て大きな潮流となっていることは事実だし、広告マンである以上は、その状況に沿った広告作りをやるべきだと思う。政治性を感じさせずに政治的な行動を語るのは難しいだろうが、そこを何とかするのが優れた広告マンではないか。
で、ナイキの大坂なおみ選手の広告がこちらだ。
いやあ、圧倒的にナイキの勝ち。特にBLMや人種差別について語ってはいないのだが、「この勝利はじぶんのため この闘いはみんなのため」というキャッチフレーズによって、マスクを使った彼女の行動の意図が端的に伝わってくるのである。たぶん、日清の広告を作った人たちも「完敗や」と感じていることだろう。
北野たけしさんを使ったCMや「アオハル」シリーズなど、ここのところ日清の広告には首をひねってばかりだったのだが、今回の広告は特にひどい。大坂なおみ選手を使う意味がないではないか。こんな使い方、大金をドブに捨てているのと同じである。
「Hungry?」とか「NO BORDER」とかの素晴らしいCMを作っていた頃の日清に戻ってくれよ、とカップヌードルのトムヤムクン味を食べながら私は切望したのである。