だれかが松葉杖で扉をたたく

結構、嘘つきである。

どこに住んでるかって? ああ、帝国ホテルだよ。

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帝国ホテルには、以前よく泊まっていた。根が右翼なものだから、帝国と名がつくものは何でも好き。「大日本帝国ホテル、万歳!」と万歳三唱しながら宿泊したものである。

実は、知り合いのデザイナーが「徹夜で大変やったから近所のホテルに泊まってくるわ。ま、頑張った自分へのご褒美やな」などと自慢気に言い、なにくそっと私は負けん気を発揮したのだ。聞くと彼が泊まったのは、そのへんの安いビジネスホテルである。けっ、何がご褒美だ。本物のご褒美というものを見せてやる。

歩いて10分ほどの距離に帝国ホテルがあり、見栄っ張りの私は、徹夜が続いて疲れたときには、家に帰らずに帝国ホテルに泊まるようになった。

帝国ホテルは、確かにご褒美と言うにふさわしいホテルだった。たまに気を利かせてくれたのか「ダブルブッキングしておりまして」などとジュニアスイートにアップグレードしてくれたのだが、いやあ、あの部屋は素晴らしかったなあ。ここを事務所として使いたいものだと心底思ったのである。

そしたら、あなた。

帝国ホテルが食事など定額制のサービスが付いた「サービスアパートメント」の事業を始めたんだそうだ。専属のスタッフ、食事や洗濯などが付いて、約30平方メートルの部屋30泊で36万円なんだという。約50平方メートルの部屋は、60万円で、おそらくこちらはジュニアスイートだろう。

いやあ、これは安い。

もちろん100円の缶コーヒーを買うのにさえ3分ほど悩み、さらには薬代と診察代が惜しいので高血圧も放置している私が払える金額ではない。だが、思わず「え、安いやんけ」と思ってしまったのだ。

「事務所ですか? 帝国ホテルの部屋を借りてます」

見栄っ張りの私としては、最高に言ってみたいセリフである。

「ああ、申し訳ない。今、急ぎの仕事をやっていて手が離せません。17階のバーラウンジで待っててもらえますか。私の名前を言ってもらえば通るようにしておきますから」

そう言えば私が好きな漫画「ボーダー」にも、主人公が一時期ホテルに滞在するシーンがあった。本当は安アパートのトイレを改造した部屋住まいなのに、ホテルではVIP扱いである。その格好のいいこと。私の憧れなのだ。六本木ヒルズに住んでいるよりも、満足感は高いのではないか。

コロナの影響なのかどうかは知らないが、帝国ホテルも随分と思い切ったサービスをはじめたものだ。すぐに予約で一杯になるのではないか。

帝国ホテルでの宿泊は、今では落ちぶれてしまった私にとって、数少ない栄光の記憶だ。「大日本帝国ホテル、万歳!」と三唱させていただく。