だれかが松葉杖で扉をたたく

結構、嘘つきである。

かな入力が速いに決まってるでしょうが~っ。「親指シフトキーボード、ひっそりと前倒しで販売終了」の記事に、思わず憤慨。

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ご存知か?

昔々、「親指シフト」という入力方法があった。実は、私が若い頃勤めていた会社にあったのが富士通ワープロで、それは親指シフトという非常にへんてこりんな入力方法を採用していた。

キートップにはふたつの仮名文字が表記されており、上の文字を打ちたい場合はそのまま打つ。下の文字を打ちたい場合は、親指キーと同時に打つのである。

すでにNECの「文豪」というワープロを所持し、タッチタイピングをマスターしていた私は、「なんじゃー、これは」と驚き、バンバンバンとキーボードをこぶしで叩いたのである。まあ、私は順応能力が高いので、数時間後には事務の女の子よりも速く打てるようになったのだが。それ以降、私がワープロ清書係になった。

慣れてみると、確かにいい点はある。

濁点半濁点も、親指との同時打ち(本来とは逆の親指キーを押す)で一度の打鍵ですむのだ。かな入力だと、例えば「ぎ」は「き+゛」でツーストロークである。親指シフトと比べると0.03秒くらいのロスである。「ゃ」などの拗音に関しても同じだ。

親指シフトの一番のメリットは、拗音・促音・濁音・半濁音・長音・句読点などを含む、その他のすべての読みを、数字段を除く3段の範囲に収容していることだ。手が小さい人でも、無理なく届くのである。女性などには、向いていたのではないか。

実は私も、パソコンを使いだしてから、親指シフトキーボードを導入したことがある。だが、結局、かな入力に戻した。

私の手は比較的大きいから4段でも問題ないし、何より親指シフトの「ちょっとややこしいことやってるな」という意識が頭のどこかに残っていたからである。

このあたり、ローマ字入力と似ている。「ああ、おれは今、ローマ字を打っているな」という意識がどうしても生まれるのである。それは、文章を書く際には、ジャマな意識である。その意識から「おれはローマ人だったのか」という疑念が生じ、「いやいやおれは日本人だ。だったらかな入力でしょうが~っ」という結論に達したのだ。

さて、その親指シフトを採用したキーボードが2021年1月末に販売終了となったというネットの記事を読んだ。一年以上前である。記事のタイトルは親指シフトキーボード、ひっそりと前倒しで販売終了。40年の歴史に幕」という、いささか寂しいものだった。

その記事の中で、こんなことが書かれていた。

富士通によると、「ローマ字入力は、思いついた言葉の音(読み)を頭の中でローマ字に変換する必要があるが、親指シフトキーボードでは、それが不要であり、同時打鍵方式の採用により、打鍵数が少なくて済むというメリットがある。また、かな入力と比較しても、文字キーを上下3段にまとめたことにより、ホームポジションから手を移動させずにひらがなを入力でき。濁音や半濁音も一回の同時打鍵で入力できる。さらに、英字モードにすることなく、最上段の数字が入力できるため、テンキーがない場合に大変便利である」としていた。

まあ、富士通の人だからね。自分の製品に肩入れするのは仕方がない。

だが、ローマ字入力の人からすると、「何言うとんじゃい。いちいち頭の中で変換なんかしとるかいっ。もう、自然にローマ字が出てくるんじゃ~っ。わしは、生粋のローマ人なんじゃ~」と文句を言いたいのではないか。

また、富士通の人が言う同じ意味で、親指シフトの場合は、「えっと、『け』だから左親指だな」というように、親指シフトの打ち方に変換する必要がある」とも言えるのではないか。

私からすれば、日本語の表記のままに打つのが一番自然に速く打てる。私は、キーボード入力フェチだから、かな入力もローマ字入力親指シフトも自在に使えるのだが、やはり「自然に打てる」という点で、かな入力をメインに使っているのだ。

そう言えば、以前、会社の同僚に「ローマ字入力の方がかな入力よりも速い」と言い張っているやつがいた。理屈で考えても明白ではないか。ローマ字入力はツーストローク、かな入力は基本的にワンストロークである。かな入力の方が速いに決まっているのだ。実際に競争したのだが、私の方が圧倒的に速かった。もちろん、速さは個人差があるので、それぞれの入力方法に対する公正な競争ではなかったのだが。

実は、その同僚は雑誌に載っていた「はじめてキーボードを触る人なら、ローマ字入力の方がキーの位置を覚える数が少なくてすむので速く覚えられますよ」というのを「打つのが速い」と勘違いしていたのだ。あとで散々馬鹿にしてやったのである。

懐かしい思い出だ。久しぶりに電話して「やあ、相変わらずローマ字入力ノロノロ打っているのかね」と笑ってやろうかと思う。