だれかが松葉杖で扉をたたく

結構、嘘つきである。

大幸薬品の「クレベリン」が違反商品? さもありなん。ラッパのマークの正露丸を捨てた私の判断は、正しかったようだな。

正直に言うと、私はウンコを漏らしたことがある。小学生の時だ。

その後、腹痛には極めて敏感になり、少しでも兆しがあればすぐにトイレに駆け込むようになった。私は、失敗を反省し、改善することができる人間なのだ。

従って私がラッパのマークの正露丸を愛用したことがあっても非難されることはないだろう。ウンコを漏らすという極めて大きなトラウマを抱える人間にとって、正露丸こそ頼みの綱。一条の光。奇跡の万能薬なのである。

ところが、あなた。

実は、正露丸というのは、元々戦場で「ほれ、これから突撃せんかい。ロシア兵の機銃なんか気にすんな。とっとと死んでこい」と命令され、「いや、ちょっと腹痛が」などとためらっていると「そんな時には正露丸や」と飲んでいた薬なのだという。

つまりは、腹痛を麻痺させて痛みを感じなくさせるものだったらしい。痛みの根源をなんとかしてくれる薬ではなかったのだ。

ネットで調べてみると、こんな情報があった。

正露丸の作用は、その毒性の発現用量で現れる。すなわち腸管運動が神経毒によりマヒして下痢が止まり、知覚神経が神経毒により解離して腹痛を感じなくなる。虫歯に詰めると痛みがなくなるのも同じ原理である】

もちろんネットの情報だから、どこまで正しいかはわからない。当然のごとく販売元である大幸薬品も「正露丸の真実 木クレオソートの誤解」という情報を出している。

だが、それを読んでも「クレオソートには医薬品と防腐剤の2種類がある」とか「発がん性はない」とかの点は納得できても、「腹痛を麻痺させる」という点においてはよくわからないのである。「過剰なぜん動運動を正常に戻す」「腸の過剰な水分分泌を抑制して、腸内の水分を調節する」と言われても、それが「腹痛の麻痺」につながるのかどうかは素人にはわからないのである。

私は、腹痛は身体が「調子悪いでっせ」と伝えようとするサインだと判断し、腹痛を腹痛として受け入れることにした。そして、まだ7粒残っていたラッパのマークの正露丸を捨てたのである。

まあ、私の場合は、「もしウンコを漏らしたら」という恐怖からくる強迫神経症的な服用だったのだと思う。転ばぬ先の杖、予防は治療に勝る、英語で言えばBetter safe than sorryである。言ってみれば、ウンコを漏らさないためのお守りだったのだ。もしくはプラシーボ効果だったのかもしれない。

今は、ラッパのマークの正露丸の呪縛から解かれ、正露丸を不要とする身体に生まれ変わったのだ。めでたしめでたし。

さて、ここからが本題だ。

コロナ禍が広がる中、その大幸薬品「クレベリン」という製品を発売した。「99%殺菌」やら「空間除菌」やら「医師が推薦」などの売り文句で、随分と販売していたようだ。箔を付けるためなのか、勝手に医療施設に送りつけ問題になったりもしていた。

空気清浄機や除菌剤は「空気は見えない」という性質から企業のデータを信じるしかないないのであるが、大幸薬品に関してはそのデータが元々うさんくさかった。

当然、消費者庁も広告には根拠がないとして再発防止命令を出したのだが、大幸薬品は命令の差し止めを求めて法廷で争っていたのである。もう、見苦しいとしか言いようがない。こんな情けない企業の薬を長年使い続けてきたのかと思うと、恥ずかしい限りである。

そして、5月3日、ついに大幸薬品はホームページ上で声明を発表したのだ。「あたかも使用すれば室内空間に浮遊するウイルスや菌が除去される効果が得られるかのように示していた」ことを認め、「一般消費者に対し実際のものよりも著しく優良であると示すものであり、景品表示法に違反するものでした」と謝罪したのである。サイトからクレベリンは消えていないが、効果などの項目はすべて消され、「二酸化塩素分子のチカラ」と訳のわからない文言が載っているだけだ。

おもしろいのは、この発表を受けて、担当者が「新しいパッケージにして商品の販売は継続する。これまでの商品の返品は受け付けない」と語っていることだ。すでに効果がないと自ら認めた製品を、まだ売り続けるつもりなのである。盗人猛々しいとはこのことだ。

まあ、理解はできる。

大幸薬品は、コロナウイルス感染拡大を受けてクレベリンの増産に踏み切ったのだが、現在需要が急減。2021年12月期連結決算では純損益が95億円の赤字なんだそうだ。こういうズルい企業にはふさわしい顛末である。

ちなみにラッパのマークの正露丸を飲むのをやめた私であるが、飲んでいた頃に比べ、むしろ腹痛の頻度が減ったような気がする。正露丸を飲むのをやめて以降、ウンコを漏らしたことは一度もない。